【書評】こうやって、考える 外山滋比古 感想・レビュー


いいとこ取りをした名言集

本書は200万部を超えるベストセラーとなった『思考の整理学』を記した外山滋比古の著書である。彼は他にも思考学や日本語論などを題材にした著書を多く執筆している。本書は彼のこれまでの著作から、発想力や思考力を磨くヒントになるような言葉の抜粋を集めて作られたものである。いわば、彼の著作の「いいとこ取り」をした名言集である。数ある彼の書籍をすべて読破せずとも、この本を読めば彼がすすめる思考力や発想力のコツを知ることができるのである。

記憶に残る「短い言葉」たち

冒頭で著者は「完結は智の真髄」というイギリスのことわざを引き合いに出し、簡潔で短い文章こそ心打たれるものであると記す。数々の著者自身の名言が各ページにひとつずつ配置されているが、どれも短い。そしてことわざのようにリズム感があり記憶に残りやすい。読み手にとって印象に残るように意図されているのである。また、言葉の選び方にも特徴がある。第一章「発想力を鍛えるヒント」では『化合物を求める』という見出しのページがある。一見するとなんのことだ?と読み手は思うが、『発想はありふれた素材と素材とが思いもかけない結合、化合を起こすことで生み出される』と続けられている。それを読むとなるほどと納得できる。このように見出しの「短い言葉」だけでは意図するものを汲み取れない文章もいくつかある。難解な表現もいくらか混ざっている。その結果、読み手の好奇心がくすぐられ、ページをめくる手を止めさせないのである。

多彩な比喩表現で想像力が刺激される

本書の特徴は比喩が巧みに使われている点も挙げられる。前述した『化合物を求める』も結局のところ比喩なのだが、それ以外にも著者は多用している。第二章「思考のプロセスでは『風を入れる』という表現を用いる。『われわれは気軽に、考えた、考えた、と言うけれども、その初考は、なお、生々しく、不純なものを含んでいる。しばらくして、つまり風を入れてから、もう一度、考え直す。』と記し、洗練化の必須条件は「風を入れること」と説く。つまり、著者は「再考」の重要性を示しているに過ぎないのだが、「風を入れる」という言葉を用いることでより感覚的に分かりやすく「再考」という行為を表現している。また「再考が重要である」と書かれているよりも「思考に風を入れなさい」と書かれていたほうが読み手の印象に残りやすい。窓を開け放って風が部屋に吹き抜ける情景も浮かぶくらいである。第三章「思考力を高める方法」では自由な発想のためには執着は捨てるべきだという考えを『心の出家をする』と表現する。また、第四章「知性を磨く生活」では『思考の霧をはらす』ために散歩をしなさいと説く。これらの比喩表現は感覚的に理解しやすいのである。頭の中で情景が浮かぶ点で視覚的にも記憶にとどまりやすい。単に「思考を整理するために散歩しなさい」と言われると味気ない文章だが、「歩くことで思考の霧をはらしなさい」と言われると、歩いている間に少しずつ霧がはれていくように思考も少しずつくっきりと明確になるのだというイメージが理解できる。本書の比喩表現は読み手の想像力を刺激して、きちんと記憶にとどまるように作り上げられている。

矛盾した表現が意表をつくのに、妙に納得できる

本書において、著者は思考を整理したり発想力を高めるためには「忘れる」ことが必要だと説く。「忘れる」とは「頭をきれいにする」ことで、そうすることで頭がはたらきやすい状態になり、思考が活発になるのである。それを著者は『創造的忘却』『活発に忘れる』という表現をする。一般的に、「忘却」は能動的に行われるものではないし、積極的なニュアンスを含むような「活発に」実施するものではないだろう。表現に矛盾を感じる。しかし著者はそれらに巧みに説得力を持たせている。『忘却により頭がきれいになり、思考が活発になる。知識は人間を賢くするが、思考を活発にすることはできない。つまり忘却は知識以上のことをすることができる。』『活発に忘れるならば、心はいつも新しいものを迎えるゆとりをもつことができる。』そう言われると妙に納得できてしまう。さてこれから創造的忘却について考え、活発に忘れてみようと思ってしまう。矛盾した表現をあえて使い、さらに納得できるよう説明されている点においてもきちんと記憶にとどまるように作られていると言えるだろう。

あなたにとって、必ず忘れない名言に出会える

いわゆる「名言」はその言葉を目にして感銘を受けた瞬間は「なんて良い名言なんだ!覚えておこう。忘れないようにノートにメモしておこう。」などと思うが、本書の名言は大変短い。そして前述したように、様々な角度で読み手の記憶にとどまるように工夫されている。だからこそ、メモをしなくとも、自然に頭に残るのである。そのようにして記憶に残る名言こそ人生に活用できるものだろう。忘れてしまう名言などはいらない。本書を手に取れば、あなたにとって必ず忘れない名言に出会えるだろう。