【書評】脳の強化書 加藤俊徳 感想・レビュー


説得力が段違いの、脳を効果的に鍛えるための本

表題を見る限り「脳トレ」の本?と感じる人は多いだろう。「脳トレ」という言葉は数年前に流行して、ゲームやテレビなどでもてはやされた。しかしそれら「脳トレ」は脳の構造のどこにどのような刺激を送っており、トレーニングの結果どのような成果がもたらされるのか、が明確にされていないものが多かった。ただなんとなく頭を使うゲームを「脳トレ」と呼んでおり一時的な流行のようなものだった。しかし本書は全く違う。実に1万人を超える脳のMRI画像を見てきた医学博士の著者が、医学的根拠に基づいた実用的な脳の鍛え方を記したものなのである。実際のMRI画像も挿入されており、あるトレーニングの結果、その人に変化が起こり、MRI画像上も劇的に変化しているのである。本書では、説得力のある根拠をもとに日常で実践可能な脳のトレーニング法が具体的に記されている。

脳のコンプレックスを見直し、「自分の脳に合った方法で鍛える」

序章では脳の構造とその役割の理解を読者に促す。脳は8つの領域から構成されており、それぞれに機能がある。著者は「脳番地」という表現を用いて各々を説明する。『人それぞれに個性があるように、脳にも個性がある』という。8つの脳番地の概要を把握したうえで自分の脳を理解し、自分の脳に合った方法で鍛える必要があるのだ。では自分の脳に合った方法を見つけるにはどうしたらよいか。そのためには、まず脳のコンプレックスを見直すということが必要である。脳のコンプレックスとは普段の生活で苦手意識を持っている能力のことである。例えば、「言いたいことをうまく伝えられない」「よく道に迷う」「人の名前を覚えられない」「リズム感がない」などである。それらの苦手意識はその能力を発揮するための脳番地が「休眠中」であることから発生している。「休眠中」の脳番地は効果的にトレーニングをすれば必ず目覚める。著者は『脳には「伸びたくない」と思っている場所などひとつとして存在しない。』また『脳が最も成長するのは20代から40代にかけて』と述べる。これは著者の個人的な意見ではなく医学的根拠に基づいた事実である。20~40代という働き盛りが、一番脳を伸ばすのに適した時期なのである。簡単な序章のあとからは8つの脳番地それぞれに応じた鍛え方が記される。自身の脳のコンプレックスと照らし合わせながら読み進めると、自分の脳に合った鍛え方を見出せるだろう。

うまく「負荷」をかけることが脳を鍛えるコツ

思考系脳番地を鍛える際には「一日の目標を20文字以内で作る」「絶対ノー残業デーを作る」などが具体的な方法として提示されている。それらは、脳に「20文字」や「絶対に定時で帰る」という「明確な制限」という負荷をかけて思考系の脳番地を刺激しているのである。また、「身近な人の良いところを3つ探す」「自分の意見に対する反論を考える」という方法については、あえて探し出そう、考え出そうという試みによって脳番地を刺激している。つまり、これも脳に負荷をかけていることになる。思考系脳番地以外についてもこのようにさまざまな鍛え方のアプローチが記されているが、どれもいかに効果的に脳に負荷を与えるかがポイントなのである。著者は、負荷を効果的に与えるための第一歩はまずは日常の習慣を見直すことであるという。慣れ切った日々の習慣こそが脳への刺激不足をもたらすのだ。

なんとなくやってきたことも、実はきちんと根拠がある

読み進めていくと、あることに気づく。気分転換のために良いと思ってなんとなくやってきたことについても、効果的な脳を鍛える方法だとして根拠が提示されているのである。例えば「頭が働かなくなったらひたすら歩く」である。これは歩く以外でも同じで、気分転換に体を動かすということはなんとなくやっている人が多いのではないだろうか。この「なんとなく」の行為にもきちんと根拠があったのだ。頭が働かなくなったときというのは思考系脳番地を使いすぎて行き詰まった状態なので、そのような時にはとにかく体を動かして脳の活動を無条件に運動系脳番地へシフトさせる必要があるのだ。とにかく何も考えずに10~15分歩くことで、酷使した思考系脳番地を休息させることができる。なんとなくやってきたことも理に適っているのだ。そのような発見ができることも本書の魅力である。

筋肉のように脳も必ず「鍛える」ことができる

筋肉はどこをどう動かすとどの筋肉が鍛えられるかなど、わかりやすく理解しやすい。視覚的にも鍛えられた効果を実感しやすい。一方で、脳は自分自身の体の一部ではあるけれども、意図的にコントロールして使いこなしたり、「鍛える」なんてことは不可能だというイメージを多くの人が持っているだろう。しかし本書はそのイメージを真正面から打破する。今まで述べて来たように、脳の番地をきちんと理解し、その番地に適した「負荷」をかけて効果的に働きかければ、筋肉のように鍛えることが可能なのである。